俺は麓まで降りると早速携帯を取り出したのだが

「ありゃ?電池切れか・・・」

そう・・・屋敷を出る前充電を行ったのだが、電池が完全に切れていた。

「仕方ないか・・・えっと・・・あった」

俺は近くにある公衆電話に駆け寄ると小銭を投入、家に電話を掛ける。

『はい・・・』

「ああ、琥珀さんですか?」

『はい、と・・・志貴さん?志貴さんですか?』

その琥珀さんの言葉と同時にどたどた駆け寄る音が聞こえる。

『琥珀!!兄さんからなの?』

秋葉の声が電話越しにでも良く聞こえる。

『はい・・・えっと志貴さん皆さんとも替わり・・・』

その言葉を俺は遮る。

「いえ、実は公衆電話からですので、ちょっと時間が無いものですから・・・」

『えっ?そうですか・・・』

「ええ、皆には五番目の遺産を滅ぼしたと。それと、少し急用が出来てしまって、帰りは二・三日位後になるとも伝えて下さい」

『はい、わかりました。志貴さんも急いで帰ってきてくださいね』

「わかりました・・・ああ、それと琥珀さん、やっと笑い声を聞かせてくれましたね」

『ええっ?・・・そ、そうですか?』

「うん、やっぱり琥珀さん笑っている時が一番だからまた笑顔で出迎えてください」

『はい・・・ありがとうございます志貴さん』

それを最後に俺は電話を切る。

さてと、急いで戻るか・・・






里に帰ると既に虎影さんは作業を開始していた。

「志貴帰ってきたか」

虎影さんは『凶断』・『凶薙』・『闇神』の柄を既に引き抜き、置いている。

「はい・・・それで俺は何を?」

「志貴・・・辛いと思うが・・・『七つ夜』に介錯を」

と言うと、何処からか取り出した短刀と『七つ夜』を俺に差し出す。

「・・・・・・」

俺は震える手で短刀を手に取る。

去来するのはこれと共に戦ってきた日々、俺の半身としてその身を常に激闘の中に置いた『七つ夜』

「・・・」

魔眼を解放する。

『七つ夜』に浮かぶ線、俺は全ての躊躇いを吹き飛ばす様に線を三つ通した。

次の瞬間『七つ夜』は、三つに分割された刃と柄のみとなった。

「・・・ありがとうな・・・相棒・・・」

俺は静かにそう言った。

「ご苦労だった、志貴」

その虎影さんの台詞と共に俺の瞳から涙が溢れてきた。

「志貴・・・ここでゆっくり休め。後は俺が執り行う。鳳明、少し手伝ってくれ」

「判りました」

「・・・はい・・・よろしくお願いします」







志貴がその場を立ち去ると同時に虎影は作業を始める。

「しかし、虎影殿一体どの様にして・・・」

「まあ見ていろ」

そう言うと虎影の精神集中と共に片手から膨大な熱量と共に炎が噴出す。

「虎影殿・・・」

「これが私の『凶夜』本来の力だ。私は冥府の獄炎を呼び出す事が出来る。そしてこれだけの獄炎でなければ『魔殺鉱』を融解させる事は出来ない」

「そうだったのですか・・・あくまでも刀鍛冶は能力の応用・・・」

その言葉に肯き虎影はまず『凶断』・『凶薙』・『闇神』を『魔殺鉱』と共に獄炎を浴びせ掛ける。

その途端見る見るうちに解けあっと言う間にどろどろに溶けた液体となる。

この時点で既にこの作業場には耐え難い熱が篭る。

辛うじて涼の結界をはったおかげで熱は押さえられているがそれでもこの熱は異常だった。

現に借り物の肉体の服は既に煙を吐き出していた。

「さあ・・・急いで創り上げるぞ・・・」







場所は変わる。

ここは遠野家。

そこでは未だに帰宅してこない志貴を待ちわびる八人が不安と苛立ちを両立させていた。

「翡翠、兄さんから連絡は!!」

秋葉が完全に苛立った口調で翡翠に問い詰める。

「いえ、まだです」

「沙貴!!」

「私も兄様から連絡は受けていません」

「・・・・・・」

居間を行ったり来たりしながら苛々した表情を強める秋葉。

「秋葉、心配は要りません。志貴の実力は秋葉が一番良くわかっている筈」

そんな秋葉にシオンが宥める様に言う。

「そうですよ秋葉さん。よく言うじゃないですか。『連絡が無いと言う事は無事だと言う証拠だと』」

シオンの言葉にシエルも同調する。

「それは・・・そうですが・・・」

「あれ?妹は志貴を信頼してないの?」

「そ、そんなわけないでしょう!!」

アルクェイドのからかいに激昂した秋葉がそう叫んだ時、電話のベルが鳴り響いた。

「はい、と・・・志貴さん?志貴さんですか?」

電話を受けた琥珀の声に全員電話に殺到する。

「琥珀!!兄さんからなの?」

「はい、えっと・・・志貴さん、皆さんとも替わり・・・えっ?・・・そうですか・・・はい、わかりました。じゃあ志貴さん急いで帰ってきてくださいね・・・ええっ?・・・そ、そうですか・・・はい・・・ありがとうございます志貴さん」

そう言うと、琥珀は電話を置く。

「えっと・・・志貴さん何か急用が出来たみたいで帰るのは二・三日ほど後になるそうです」

そう言って苦笑する。

「えーーっ!!まだ帰ってこないの?」

「はい、何かどうしても外せない用事があるという事で・・・」

「それで兄様遺産は・・・」

「はい、五番目の遺産は破壊したとの事です」

「そうですか・・・良かった・・・」

「そうなると遺産はあと・・・」

「一つね・・・」

その時急激に空気が瘴気に淀み出した。

「!!えっ?」

異変に気付いた時には既に手遅れだった。

アルクェイド達はことごとく身体が麻痺した。

「なんなのですか!!これは!!」

全員の気持ちを代表してシオンがそう叫んだ瞬間、

「そうか・・・もう父上もお爺様もいないのか・・・なら後は僕が執り行うだけだね」

聞きなれない男の子の声が聞こえた。

「な、何者です!!」」

「くすっ、別に怖がる事は無いよ・・・探している遺産さ」

「えっ?」

「さてと・・・じゃあ始めようか・・・」

その声は急に色を変えた。

「君達は七夜志貴を愛しているよね?」

「と、当然よ!!」

問い掛けにまずアルクェイドが叫ぶ。

「でも、七夜志貴はたった一人・・・誰かと結ばれれば残りは泣く事になるよね?」

「そ、それは・・・」

「そんな事意味ありません!!兄さんと最後に結ばれるのは私なんですから!!」

翡翠は口ごもり、秋葉は自信に満ちた口調でそう叫び返す。

問い掛けはなおも続く。

「でも・・・生きていれば彼は他の女性に目移りする事もあるよ・・・」

「くっ・・・」

「そして君達はゴミの様に捨てられて、七夜志貴と他の女性が仲睦まじく暮らすのを見る事しか出来なくなる・・・」

「い、いや・・・」

「やだー・・・志貴と一緒にいたい・・・」

仮定の話にも拘らずアルクェイド達の反応は異常だった。

それはあたかも志貴が全員を捨てる事が確定しているかのように・・・

「でもさ・・・」

ここで口調はねっとりとしたものに変わる。

「一つあるよ・・・七夜志貴を自分だけのものにする手段が・・・」

「そ、それはなんなのですか?どうすれば志貴さんを・・・」

問いかける琥珀に変化が現れた。

瞳は焦点が合わず、口調も平淡で、人形に等しい。

「ふふふ・・・簡単だよ。それはね・・・七夜志貴を殺して、その死体を食らえば良い。そうすれば七夜志貴を誰にも奪われず自分の中だけに彼を独占出来る・・・」

「「「「「「・・・そうか・・・そうすれば・・・あはははははははははは・・・」」」」」」

その声に六人は狂った様に笑う。

「だ、駄目です・・・皆さんその声に惹かれては・・・」

ただ一人沙貴のみがその禁断の誘惑に耐えるように歯を食いしばる。

「何で君は耐えるの?七夜沙貴・・・」

「と、当然です・・・こんなの・・・こんな事しても兄様を独占出来ない・・・私は生きた兄様が欲しいの・・・」

「でも・・・そうして結ばれても君を捨てるかもしれないよ?君がどんなに汚らわしい女か?彼は知っているから・・・」

『捨てる』それは沙貴にとっては最大の禁句だった。

その上に彼女が心に奥底に秘めた劣等感を白日に晒された沙貴に怯えが走る。

「い、いや・・・いやいや・・・兄様に・・・兄様だけには捨てられたくない・・・」

沙貴の精神上の防壁が一部崩壊する。

そこに禁断の誘惑が注ぎ込まれる。

「だからさ・・・そうならない内に七夜志貴を殺せば良い・・・他ならぬ君自身の手で・・・」

「そ、それは・・・」

沙貴に迷いが生じ始める。

「それに・・・君にだったら・・・七夜志貴は喜んで殺されるよ・・・きっと・・・」

「・・・・・・」

沙貴の瞳から意志が消えた。

「じゃあ君達は普通に生活していて良いよ・・・時が来たら僕が合図するから・・・」

「「「「「「「はい・・・・・・」」」」」」」

その瞬間空気は消え失せた。

そして彼女達から先程の記憶は消え失せていた。







・・・ふふふ・・・これで準備は良い。まあ、『八妃』の内一人には逃げられた様だけどまあ良いさ・・・さあ・・・七夜志貴・・・早くおいでよ・・・僕が全身全霊を持って歓迎してあげる・・・六遺産最後の一つ・・・そして、六封最後の一人・・・七夜紫影が・・・

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